「伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい」第5話 伯爵家の堅物当主は元同級生から離れられない (前編)
アーサー・グレイは、同級生のリチャード・ウィンザーが嫌いだった。彼はウィンザー公爵家の嫡男である。公爵家というのは王家に連なる血筋で、他の貴族とはいささか性質や役割が異なっている。国が安泰であるためには、公爵家が安泰であることが重要になってくるのだ。それゆえに責任が重い。なのに彼はその責任を軽視している。公爵家の人間ともなれば公の場に出ることも多いのだが、彼はごくたまにしか姿を現さない。未成年のうちだけならまだしも十六歳で成人になってもだ。それはすべて彼個人のわがままだという。学業においても真摯に取り組んでいる姿勢が見えない。自主的に勉強している様子はなく、授業中でもぼんやりと窓の外を眺めていることが多い。ときには目をつむって微睡んでいることさえある。「いまは自習の時間だ。居眠りをしていいわけじゃない」「んだよ...「伯爵家の箱入り娘は婚儀のまえに逃亡したい」第5話伯爵家の堅物当主は元同級生から離れられない(前編)